【書評/読書感想】「プロスポーツビジネス 私たちの成功事例」(東邦出版[編])

スポーツビジネスやサッカー本を数多く出版している東邦出版の最新作。スポーツビジネス界のトップランナー9人が自身のスポーツビジネスにおけるキャリアや仕事論を語る一冊となっている。同じスポーツビジネスでも本書で紹介されている仕事内容は多様で、クラブ経営、放送権ビジネス、スポーツデータリサーチ…etc.

注目はスポーツファシリティ研究所代表・上林功氏と、JTBに勤める倉田知己氏の章。前者は「スタジアム論」、後者は「スポーツツーリズム論」。共にこれから日本のスポーツ界にとって大きな役割を果たすであろうポテンシャルの高いテーマである。



■スタジアム論

スタジアムについては直近に参加した宇都宮徹壱さんのイベントでもトークテーマになっていた他、6月には完成したばかりのミクニワールドスタジアム北九州を訪問したこともあり、個人的には感度が高くなっているスポーツビジネスのホットワードでもある。

倉田氏は良いスタジアムの条件として「遊環構造の7原則」という理論を紹介している。7原則のうちの1つを紹介すると「循環に広場が取り付いていること」で、マツダスタジアムのバーベキューができる席や“寝ソベリア”はこの原則に基づいて建築されたとのこと。また、スタジアムは地域のために単純にスポーツを観る以外の役割を果たすべきとも記載されており、この考え方はもはや当然といえるほど認知されてきた印象。

前述の宇都宮徹壱さんのイベントでは専用スタジアム建設に反対の立場の方もいて「スタジアムを建設する何十億円という金で老人ホームが何個も建築できる」という発言が印象的だった。地域にとってどちらが必要な投資なのかという話。だからこそスタジアムの在り方として複合型が主張されることが多いのだろう。身近なところではガンバ大阪は吹田スタジアムの指定管理者だが、地域のためにサッカー以外での利用法を考えなければいけない。吹田スタジアムには老人ホームも、病院も、レストランもないが、サッカー関係者以外のステークホルダーに満足してもらえるような使い方をして稼働率を高めることが直近の課題であると本書を読んで再認識した。


吹田スタジアム。結婚式や会議室利用以外の稼働率を高めるアイデアが求められている


ミクニワールドスタジアム北九州。ギラヴァンツ北九州は指定管理者ではないそうだが・・・。

■スポーツツーリズム論

愛するJリーグクラブの応援で日本国内および海外まで遠征する我々サポーター的には魅力を理解しやすい分野「スポーツツーリズム」。サッカー観戦とセットで、静岡に遠征すれば「さわやか」を食べ、福岡に遠征すれば「明太子」を食べる。観光とセットで遠征の満足度を高める。特に企業や自治体のアシストを頼らず、自発的にSNSで情報交換をしながら育ててきた文化だ。

そんなスポーツツーリズムに企業や自治体が力を入れ始めている。背景には高齢化・人口減による税収減などからインバウンドの収入が必要になってきていることがある。そして、2019年ラグビーワールドカップ、2020年東京五輪などビッグイベントも控えていることも大きな理由の1つだ。先のスタジアム論と重なる部分もあるが単純に試合を観てもらうだけだけでは足りないという考え方がベースにある。どのような付加価値を付けるべきなのかを関係者は考えている。スポーツビジネスにおいてコントロール不可能な勝敗(試合)以外の充実を図ることは至極当然のアプローチだ。付加価値とはつまり、より多くのお金を使ってもらうということにもつながり、ステークホルダーに経済的メリットをもたらすことでもある。

本書ではスポーツ観戦をする外国人向けのアンケートとして試合観戦以外に「トレッキングをしたい」などアクティブな体験を求める声が多かったデータが紹介されている。日本人が気づいていない日本の魅力は多々あるようで、大自然の中を走るマラソンや自転車レースに外国人が訪れている事例は近年よく見聞きする。個人的にもマンネリ化して日帰りも増えたアウェイ遠征において試合観戦翌日に「サポーター対抗フットサル大会」や「Jリーグクリテリウム」、「サポーター対抗ゴルフコンペ」などが開催されれば、より遠征が充実したものになるのは想像がつく。他プロスポーツクラブとのコラボレーションも面白い。宿泊費や飲食費などお金もたくさん使うだろう。

再び身近なガンバで考えれば、「エキスポシティでの映画鑑賞券+試合チケット」のような試合観戦だけではなく、試合観戦を軸とした試合前後の過ごし方まで含めたプランの提案が求められているということだ。Jリーグクラブは自クラブだけではなく地域も潤す存在であるべきである以上、考える価値の高いテーマである。それがホームタウンの課題解決につながったり、地域の魅力アピールにつながったりすれば尚良し。


「SPORTEC」で配布されていたチラシ。地域の観光資源を活かしやすい自転車イベントは各地で開催されている。高所得者も多い


関連記事①:俺のアウェイ飯 アウォーズ2016
関連記事②:【書評/読書感想】「スタジアムの宙にしあわせの歌が響く街」(天野春果)



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