【書評/読書感想】「社長・溝畑宏の天国と地獄」(木村元彦)

サッカーを書くライターさんで一番好きな木村元彦氏の一冊。丁寧に取材されている感がどの本からも伝わってくるので引き込まれる。

今回紹介する本は少し古い本ではあるのだけど、Jリーグの経営におけるリアルな部分を知る事ができる。歴代のJリーグクラブ社長の中でも1~2位を争う知名度を誇る溝畑宏氏が大分トリニータに「関わり続けた」15年間を追ったノンフィクション。地域・市民主導ではなく官主導で生まれた「大分トリニータ」の歴史は資金集めに苦労する歴史。その中で溝畑氏がどうやってスポンサーを集めていたのかが本のメインテーマ。

社長・溝畑宏の天国と地獄(木村元彦)

■両刃の剣・サポーターの声

本書では溝畑氏が凄まじいバイタリティーで巨大なスポンサーを続々と獲得していく様が書かれていて、スポンサーは大分トリニータにスポンサードするというよりも、溝畑氏のパーソナリティに惹かれて協賛している事を知る事ができる。クラブへの貢献度とという部分で未だに誤解と偏見でもって語られる事の多い溝畑氏において本書を読めば印象がだいぶ変わってくるはず(※木村元彦氏の本は我那覇和樹のドーピング冤罪を扱った「争うは本意ならねど」など世間が誤った認知をしているものをテーマにしているのが多い気がする)。

ただ、ご存じの通り、最終的には溝畑氏は社長をクビになり、クラブはJリーグから借金をする。溝端氏がどれだけ頑張ってもスポンサー企業が業績不振に陥ったり、話をつけた企業をJリーグがスポンサーとして認めないなど、全て溝端氏の責任とは言い切れない要素が多くあり、その背景が詳しく書かれている。

そんな不運続きの中でも一番気の毒だったのは「フォーリーフ(スポンサー企業)」に対してサポーターがスタジアムで中傷の横断幕を出した事件。当然、サポーターも考えがあってのアクションだったとは思うのだが、結果的には自らの首を絞める事になる。

大分トリニータを長く支えたマルハンの心をひきとめたのもサポーターの声なら、新たなスポンサーを失ったのもサポーターの声。サポーターの在り方を考えさせられた。

この事件を改めて読み返して思ったのは、Jリーグの2ステージ制に関する各Jクラブサポーターの反対騒動に似てるなという事。2ステージにしなければJリーグが得る金が大幅に減ってしまうという事を反対活動当初にどれだけのサポーターが認識した上でアクションを起こしていたのか。「サポーターがあれだけ反対しているので」とスポンサー(放送局)に降りられていたらJリーグの未来はどうなっていたのか。

サポーターが悪いという話ではない。サポーターの1つ1つのアクションが大きな影響力をもっているという事。それはとてもリスキーな事だとも思う。クラブとサポーター間のコミュニケーションの重要性を再認識した。

P.S.表紙の写真は歴代のサッカー本の中でも1位だと思う。

※関連記事:【書評/読書感想】「Jリーグ再建計画」(秋元大輔)







コメント

2ステージ制の件は「2ステージにしなければJリーグが得る金が大幅に減ってしまうという事」を説明せず隠そうとしたJリーグが悪いのであって,サポーターには何の非もない事だと思いますよ。
苦し紛れに拵えた他のメリットのために移行するなんて言わず,事情を詳らかにした上で「これだけの金が必要だから理解してくれ」と正直に言えば,大半のサポーターは理解したでしょう。
そういう意味でコミュニケーションの重要性という点には同意です。大分の場合はどの程度,情報が開示され,判断を下すための材料がサポーターに与えられていたのでしょうか?

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