【書評/読書感想】「スポーツビジネスの教科書 常識の超え方 35歳球団社長の経営メソッド」(池田純)

元横浜DeNAベイスターズ社長であり、現在はJリーグ特任理事などを務める池田純氏が著者。直近ではBリーグ・川崎ブレイブサンダースの友好的買収が話題になったスポーツビジネス界のトップランナー。横浜ベイスターズ社長時代の経験を中心に自身が考えるスポーツビジネスの在り方が紹介されている。スポーツビジネスを学びたい方は必読の一冊。



■チームの基本戦術

読み所は非常に多いが、一番興味深かったのはベイスターズの基本戦術を一冊の本で明文化する取り組み。サッカーではFC今治の「岡田メソッド」が知られているが、「型」をつくるアプローチはスポーツ界のトレンドになりそうな予感。個人的にも「ガンバ大阪=攻撃的」という世間の印象が根付きつつある中、実際に今行われているサッカーは守備的でつまらないものになっている現実に打ちひしがれているタイミングだったので余計にそう感じた。

監督・選手の獲得や評価もその型に合うか合わないかの基準で考えれば継続性が生まれる。そういう意味では近年ガンバ大阪に西野黄金時代を経験しているOBがスタッフとして出戻ってきていることは期待感がある。同じサッカーを経験している恒や智、聡太らが中心となって「ガンバの型」を創ってほしいし、それは攻撃的であって欲しい。

■ビジネス面での強化がチームを勝たせる

上記以外にも「横浜スタジアムのTOB」、「ストーリーとセットで食べ物やグッズを売る方法」、「ソシオ制度」などスポーツビジネスの最新トレンドとも言える事例や考え方が多く紹介されており、近年のスポーツビジネス書では一番内容が濃かった。我々ガンバサポーターは夏の大阪ダービーでそれを実感したが、集客(ビジネス)面での強化がチームの後押しになるのは明らか。プロジェクションマッピングや記念ユニホームなど集客につながっている企画も生まれつつあるので、テンポラリーで終わるのではなく、季節の風物詩的に定着させてもらえれば嬉しい。「鷹の祭典」のような鉄板定番イベントが生み出せればクラブは更に成長できる。チームとしては「タイトル奪取」が明確な目標として広報されているが、ビジネス的にも「平均観客動員数」など明確な目標を発表してもいい。

日本のプロスポーツがエンタメ化するのは良いこと。今後、日本のプロスポーツの楽しみ方はますます多様化する。

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【書評/読書感想】「J's GOALの熱き挑戦」(Jリーグメディアプロモーション編著)

2009年9月初版なので8年前に発売された一冊。ここ数年は紆余曲折あったが、「J's GOAL」の成長過程や苦悩、PV数向上への工夫が紹介されている。2009年からWEB環境は大きく変化してはいるが人気サイトの運営において不変である要素は多く、今読んでも非常に勉強になった。

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個人的に本書を読んで感じたキーワードは「サポーター目線」

J's GOALはとにかくサポーターを主役に置いたコンテンツ開発の視点が秀逸だった。スタジアム内の応援だけではなく、関連する様々なコンテンツをトータルで楽しんでもらおうとするアプローチは業界初だったのではないかと記憶している。スタジアムグルメ、ゲーフラ制作マニュアルに代表されるピッチ外企画の数々がサポーター文化を豊かにしたし、共感を呼んだ。これは他社サイトとの比較から自分達の強みを深堀した結果生みだされたサイト運営方針らしい。

また、サポーター参加型の企画を重視した点も既存メディアとの違いで、「声援音量計測」「お宝紹介」などの企画はJリーグサポーターの代表的なメンタリティである“当事者意識の高さ”を大いにくすぐった。人によってJリーグに興味を持つきっかけは様々。カッコいい選手がいるから、美味しいグルメがあるから、素晴らしいスタジアムがあるから…Jリーグの人気が下火になっていた時代は多様性を認めず「Jリーグ(サポーター)はこうあるべき」という空気感があったようにも記憶しているが、J's GOALには“邪道”が存在せずコンテンツを量産した。

数ある中でも代表的なものが「ACL遠征企画」。今では信じられないが「ACL=罰ゲーム」と捉えるサポーターも多かった時代に日本を代表して異国で戦える価値をブランディングした功績は大きい。情報が少ない異国クラブスタジアムへのアクセス方法を現地取材で記事化するなどサポーターのACL遠征をバックアップした。私もACL遠征を始めた当初はJ's GOAL記事のプリントアウトを片手に遠征した記憶がある。

コンテンツの価値は自分達が育てるもの。自分達が好きなものの魅力を一生懸命世の中に広める仕事は素敵だ。

関連記事:【書評/読書感想】「J2&J3フットボール漫遊記」(宇都宮徹壱)



【書評/読書感想】「プロスポーツビジネス 私たちの成功事例」(東邦出版[編])

スポーツビジネスやサッカー本を数多く出版している東邦出版の最新作。スポーツビジネス界のトップランナー9人が自身のスポーツビジネスにおけるキャリアや仕事論を語る一冊となっている。同じスポーツビジネスでも本書で紹介されている仕事内容は多様で、クラブ経営、放送権ビジネス、スポーツデータリサーチ…etc.

注目はスポーツファシリティ研究所代表・上林功氏と、JTBに勤める倉田知己氏の章。前者は「スタジアム論」、後者は「スポーツツーリズム論」。共にこれから日本のスポーツ界にとって大きな役割を果たすであろうポテンシャルの高いテーマである。



■スタジアム論

スタジアムについては直近に参加した宇都宮徹壱さんのイベントでもトークテーマになっていた他、6月には完成したばかりのミクニワールドスタジアム北九州を訪問したこともあり、個人的には感度が高くなっているスポーツビジネスのホットワードでもある。

倉田氏は良いスタジアムの条件として「遊環構造の7原則」という理論を紹介している。7原則のうちの1つを紹介すると「循環に広場が取り付いていること」で、マツダスタジアムのバーベキューができる席や“寝ソベリア”はこの原則に基づいて建築されたとのこと。また、スタジアムは地域のために単純にスポーツを観る以外の役割を果たすべきとも記載されており、この考え方はもはや当然といえるほど認知されてきた印象。

前述の宇都宮徹壱さんのイベントでは専用スタジアム建設に反対の立場の方もいて「スタジアムを建設する何十億円という金で老人ホームが何個も建築できる」という発言が印象的だった。地域にとってどちらが必要な投資なのかという話。だからこそスタジアムの在り方として複合型が主張されることが多いのだろう。身近なところではガンバ大阪は吹田スタジアムの指定管理者だが、地域のためにサッカー以外での利用法を考えなければいけない。吹田スタジアムには老人ホームも、病院も、レストランもないが、サッカー関係者以外のステークホルダーに満足してもらえるような使い方をして稼働率を高めることが直近の課題であると本書を読んで再認識した。


吹田スタジアム。結婚式や会議室利用以外の稼働率を高めるアイデアが求められている


ミクニワールドスタジアム北九州。ギラヴァンツ北九州は指定管理者ではないそうだが・・・。

■スポーツツーリズム論

愛するJリーグクラブの応援で日本国内および海外まで遠征する我々サポーター的には魅力を理解しやすい分野「スポーツツーリズム」。サッカー観戦とセットで、静岡に遠征すれば「さわやか」を食べ、福岡に遠征すれば「明太子」を食べる。観光とセットで遠征の満足度を高める。特に企業や自治体のアシストを頼らず、自発的にSNSで情報交換をしながら育ててきた文化だ。

そんなスポーツツーリズムに企業や自治体が力を入れ始めている。背景には高齢化・人口減による税収減などからインバウンドの収入が必要になってきていることがある。そして、2019年ラグビーワールドカップ、2020年東京五輪などビッグイベントも控えていることも大きな理由の1つだ。先のスタジアム論と重なる部分もあるが単純に試合を観てもらうだけだけでは足りないという考え方がベースにある。どのような付加価値を付けるべきなのかを関係者は考えている。スポーツビジネスにおいてコントロール不可能な勝敗(試合)以外の充実を図ることは至極当然のアプローチだ。付加価値とはつまり、より多くのお金を使ってもらうということにもつながり、ステークホルダーに経済的メリットをもたらすことでもある。

本書ではスポーツ観戦をする外国人向けのアンケートとして試合観戦以外に「トレッキングをしたい」などアクティブな体験を求める声が多かったデータが紹介されている。日本人が気づいていない日本の魅力は多々あるようで、大自然の中を走るマラソンや自転車レースに外国人が訪れている事例は近年よく見聞きする。個人的にもマンネリ化して日帰りも増えたアウェイ遠征において試合観戦翌日に「サポーター対抗フットサル大会」や「Jリーグクリテリウム」、「サポーター対抗ゴルフコンペ」などが開催されれば、より遠征が充実したものになるのは想像がつく。他プロスポーツクラブとのコラボレーションも面白い。宿泊費や飲食費などお金もたくさん使うだろう。

再び身近なガンバで考えれば、「エキスポシティでの映画鑑賞券+試合チケット」のような試合観戦だけではなく、試合観戦を軸とした試合前後の過ごし方まで含めたプランの提案が求められているということだ。Jリーグクラブは自クラブだけではなく地域も潤す存在であるべきである以上、考える価値の高いテーマである。それがホームタウンの課題解決につながったり、地域の魅力アピールにつながったりすれば尚良し。


「SPORTEC」で配布されていたチラシ。地域の観光資源を活かしやすい自転車イベントは各地で開催されている。高所得者も多い


関連記事①:俺のアウェイ飯 アウォーズ2016
関連記事②:【書評/読書感想】「スタジアムの宙にしあわせの歌が響く街」(天野春果)



【読書感想】「スポーツ都市戦略 -2020年後をみすえたまちづくり-」(原田宗彦)

東京五輪開催が決まってから頻繁に語られることが増えた「レガシー」という言葉に敏感になっている。五輪自体よりも五輪後にこそ楽しみがある。期待がある。スポーツを通じて町が活性化し、人々がつながる社会。言葉にするとなんとも抽象的だが、真剣に考える価値のあるテーマだと思う。

振り返ると、自分の人生における財産はスポーツ(サッカー)を通じて多くのものを得た。例えば、サポーター活動を通じて出会えた人々、行くことができた場所、こうやって文章を書き続ける習慣は今の自分にとってどれも大切なものだ。実体験としてスポーツの魅力や力を知っているからこそ余計にスポーツを利用した社会つくりに興味が出る。スポーツを通じて変化した街を想像しただけで気持ちが明るくなる。

スポーツ都市戦略

■スポーツがもたらす可能性

そうした自身の経験もあり、スポーツ文化を広めたいと常々思っている。その魅力を多くの人に知ってもらいたい。そのためには論理的に理解しなければという想いで本書を購入した。このジャンルの第一人者である早稲田大学の原田宗彦先生が国内外のあらゆる具体的な事例を用いながらスポーツの力が分かりやすく丁寧に紹介されていて理解しやすい内容になっている。特に各地方のスポーツコミッションの活動事例などは普段は得にくい情報だと思うので興味深かった。

また、都民的には東京五輪関連の情報が気になるが、本書では世界の先進都市の中でも東京は都民のポーツ参加率がここ数年で急上昇していることが紹介されている。これは特に国や東京都がスポーツ施設を建設した等のアプローチがない中での数字であり、東京五輪後に環境が整った時への期待感は膨らむ。社会人になっても、会社や家族以外の人とスポーツを通じて地縁ができるメリットはサポーターの我々であれば知っている。

いい施設ができればスポーツ合宿や大会開催の誘致などスポーツツーリズムの分野でも街を活性化できる。Jリーグを例に考えると、今後はサポーターを対象にした「観るスポーツ」と「するスポーツ」を組み合わせた旅行ツアーを検討しても面白いかもしれない。他クラブサポーター間の交流が増え、より日本らしい平和なリーグに発展する可能性だってある。

スポーツの可能性は大きい。家、会社、そして、スポーツ(施設)。楽しく生きるためにはサードプレイスが必要だ。

関連記事:【書評/読書感想】「国際スポーツ組織で働こう!」(つくば国際スポーツアカデミー・アソシエーション編)




【書評/読書感想】「J2&J3フットボール漫遊記」(宇都宮徹壱)

子供の頃は当時全盛期だった金子達仁氏の本を読んでプロサッカー選手の表と裏を知ることに夢中になった。学生時代後半は村上龍氏をはじめとする作家のサッカー観戦エッセイで多角的な視点での観戦術を知った。そして、社会人になってからは今回紹介する本の著者である宇都宮徹壱氏からサッカーを文化として捉えることを学んでいる。

宇都宮氏の本を読むのは「フットボールの犬」「股旅フットボール」「フットボール百景」「サッカーおくのほそ道」につづく5冊目。「J2&J3フットボール漫遊記」ではJ2・J3クラブの現在地がそれぞれのクラブが抱える課題や歴史をふまえつつ紹介されている。クラブと行政の関係性、ゴール裏のジェネレーションギャップ、クラブ施設、ライセンス、人事…etc.

注目点は各章の最後に記載されている【付記】。記事が書かれた「その後」が書かれているのだが、現実は厳しいことを痛感する。インタビューで夢を語っていた監督が解任されていたり、状況が悪化していたり。これがリアル。サッカークラブは夢を語るだけでは生きていけないことを痛感させられる。



■自治体とスタジアム

2017年7月17日(祝)、渋谷の書店で開催された「J2&J3フットボール漫遊記」の出版イベントに参加してきた。テーマは本書の裏テーマでもあった「自治体とスタジアム」について。登壇者は著者の宇都宮氏、ちょんまげ隊のツン氏、サッカー漫画家&愛媛サポの能田達規氏、Jリーグクラブ勤務経験豊富な長岡茂氏、「今そこにあるサッカーを愛せ」ロック総統という日本サッカー界のメジャーとアングラが混ざる面白いメンバー。一見イロモノなツン氏やロック総統は経験談をベースに話すので臨場感と説得力があるし、初めて生で観た能田氏には出版物との本人のキャラクターのギャップに驚かされた。特に能田氏の愛媛愛からくる愛媛批判トークは無双状態で場が大いに盛り上がった。そこに論理的な宇都宮氏&長岡氏が加わり、意外にバランス良い座談会となった。


会場はBOOK LAB TOKYO。参加費は900円

スタジアムについては考えさせられる話題が盛りだくさん。ギラヴァンツが北九州のミクスタの指定管理者ではないという事実がある一方で、FC今治やいわきFCのようなクラブ(企業)主導で専スタを前提としたクラブづくりも存在するというクラブ間のスタジアム利用に対する温度差。Jリーグクラブの地域への影響力を過信する自治体もあれば、軽視する自治体の例もある。宇都宮氏の「地方のJ2やJ3クラブがある自治体ほどJリーグクラブに対する過度な期待があるように感じる」趣旨の発言が印象的。新スタ建設については地域や地域の企業が抱える課題との親和性、自治体(担当者)のやる気、土地やタイミングなどが合致して成立する過程など具体的事例と様々な立場からの見解を学べて有意義だった。


長岡茂氏は現在、スペリオ城北のスーパーバイザーに就任中

長野、吹スタ、北九州と専スタ建設ラッシュゆえにスタジアム建設については追い風が吹いていると感じてしまうが、そんなに甘いものではないと認識を修正。ロック総統が主張する「上を目指さない」というクラブの在り方は過去の反省の結果として今後のトレンドになる可能性はある。そういう多様性はあってしかるべき。前述の【付記】にある通り、現実は甘くない。ただ、一方でサポーターとしての経験からは「上を目指せる事」がサッカーの魅力でもあり、ACLやCWCでの経験は何物にも代えがたいことも事実としてある。夢を見れないクラブ運営にどれだけのフォロワーがつくのかという疑問もある。難しい。

関連記事①:サポーターの光と影 ~北九州アウェイ漫遊記~
関連記事②:『J番記者による大忘年会2016』に参加してきた話