【読書感想】「スポーツ都市戦略 -2020年後をみすえたまちづくり-」(原田宗彦)

東京五輪開催が決まってから頻繁に語られることが増えた「レガシー」という言葉に敏感になっている。五輪自体よりも五輪後にこそ楽しみがある。期待がある。スポーツを通じて町が活性化し、人々がつながる社会。言葉にするとなんとも抽象的だが、真剣に考える価値のあるテーマだと思う。

振り返ると、自分の人生における財産はスポーツ(サッカー)を通じて多くのものを得た。例えば、サポーター活動を通じて出会えた人々、行くことができた場所、こうやって文章を書き続ける習慣は今の自分にとってどれも大切なものだ。実体験としてスポーツの魅力や力を知っているからこそ余計にスポーツを利用した社会つくりに興味が出る。スポーツを通じて変化した街を想像しただけで気持ちが明るくなる。

スポーツ都市戦略

■スポーツがもたらす可能性

そうした自身の経験もあり、スポーツ文化を広めたいと常々思っている。その魅力を多くの人に知ってもらいたい。そのためには論理的に理解しなければという想いで本書を購入した。このジャンルの第一人者である早稲田大学の原田宗彦先生が国内外のあらゆる具体的な事例を用いながらスポーツの力が分かりやすく丁寧に紹介されていて理解しやすい内容になっている。特に各地方のスポーツコミッションの活動事例などは普段は得にくい情報だと思うので興味深かった。

また、都民的には東京五輪関連の情報が気になるが、本書では世界の先進都市の中でも東京は都民のポーツ参加率がここ数年で急上昇していることが紹介されている。これは特に国や東京都がスポーツ施設を建設した等のアプローチがない中での数字であり、東京五輪後に環境が整った時への期待感は膨らむ。社会人になっても、会社や家族以外の人とスポーツを通じて地縁ができるメリットはサポーターの我々であれば知っている。

いい施設ができればスポーツ合宿や大会開催の誘致などスポーツツーリズムの分野でも街を活性化できる。Jリーグを例に考えると、今後はサポーターを対象にした「観るスポーツ」と「するスポーツ」を組み合わせた旅行ツアーを検討しても面白いかもしれない。他クラブサポーター間の交流が増え、より日本らしい平和なリーグに発展する可能性だってある。

スポーツの可能性は大きい。家、会社、そして、スポーツ(施設)。楽しく生きるためにはサードプレイスが必要だ。

関連記事:【書評/読書感想】「国際スポーツ組織で働こう!」(つくば国際スポーツアカデミー・アソシエーション編)




【書評/読書感想】「J2&J3フットボール漫遊記」(宇都宮徹壱)

子供の頃は当時全盛期だった金子達仁氏の本を読んでプロサッカー選手の表と裏を知ることに夢中になった。学生時代後半は村上龍氏をはじめとする作家のサッカー観戦エッセイで多角的な視点での観戦術を知った。そして、社会人になってからは今回紹介する本の著者である宇都宮徹壱氏からサッカーを文化として捉えることを学んでいる。

宇都宮氏の本を読むのは「フットボールの犬」「股旅フットボール」「フットボール百景」「サッカーおくのほそ道」につづく5冊目。「J2&J3フットボール漫遊記」ではJ2・J3クラブの現在地がそれぞれのクラブが抱える課題や歴史をふまえつつ紹介されている。クラブと行政の関係性、ゴール裏のジェネレーションギャップ、クラブ施設、ライセンス、人事…etc.

注目点は各章の最後に記載されている【付記】。記事が書かれた「その後」が書かれているのだが、現実は厳しいことを痛感する。インタビューで夢を語っていた監督が解任されていたり、状況が悪化していたり。これがリアル。サッカークラブは夢を語るだけでは生きていけないことを痛感させられる。



■自治体とスタジアム

2017年7月17日(祝)、渋谷の書店で開催された「J2&J3フットボール漫遊記」の出版イベントに参加してきた。テーマは本書の裏テーマでもあった「自治体とスタジアム」について。登壇者は著者の宇都宮氏、ちょんまげ隊のツン氏、サッカー漫画家&愛媛サポの能田達規氏、Jリーグクラブ勤務経験豊富な長岡茂氏、「今そこにあるサッカーを愛せ」ロック総統という日本サッカー界のメジャーとアングラが混ざる面白いメンバー。一見イロモノなツン氏やロック総統は経験談をベースに話すので臨場感と説得力があるし、初めて生で観た能田氏には出版物との本人のキャラクターのギャップに驚かされた。特に能田氏の愛媛愛からくる愛媛批判トークは無双状態で場が大いに盛り上がった。そこに論理的な宇都宮氏&長岡氏が加わり、意外にバランス良い座談会となった。


会場はBOOK LAB TOKYO。参加費は900円

スタジアムについては考えさせられる話題が盛りだくさん。ギラヴァンツが北九州のミクスタの指定管理者ではないという事実がある一方で、FC今治やいわきFCのようなクラブ(企業)主導で専スタを前提としたクラブづくりも存在するというクラブ間のスタジアム利用に対する温度差。Jリーグクラブの地域への影響力を過信する自治体もあれば、軽視する自治体の例もある。宇都宮氏の「地方のJ2やJ3クラブがある自治体ほどJリーグクラブに対する過度な期待があるように感じる」趣旨の発言が印象的。新スタ建設については地域や地域の企業が抱える課題との親和性、自治体(担当者)のやる気、土地やタイミングなどが合致して成立する過程など具体的事例と様々な立場からの見解を学べて有意義だった。


長岡茂氏は現在、スペリオ城北のスーパーバイザーに就任中

長野、吹スタ、北九州と専スタ建設ラッシュゆえにスタジアム建設については追い風が吹いていると感じてしまうが、そんなに甘いものではないと認識を修正。ロック総統が主張する「上を目指さない」というクラブの在り方は過去の反省の結果として今後のトレンドになる可能性はある。そういう多様性はあってしかるべき。前述の【付記】にある通り、現実は甘くない。ただ、一方でサポーターとしての経験からは「上を目指せる事」がサッカーの魅力でもあり、ACLやCWCでの経験は何物にも代えがたいことも事実としてある。夢を見れないクラブ運営にどれだけのフォロワーがつくのかという疑問もある。難しい。

関連記事①:サポーターの光と影 ~北九州アウェイ漫遊記~
関連記事②:『J番記者による大忘年会2016』に参加してきた話







【書評/読書感想】「国際スポーツ組織で働こう!」(つくば国際スポーツアカデミー・アソシエーション編)

我らが宮本恒靖監督がプリントされた本の帯に惹かれて購入した一冊。ツネ様に関する記述を期待していたが、一切出てこなかった。ガンバサポーターの皆様におかれましてはご注意あれ。

国際スポーツ組織で働こう

■国際スポーツ組織で働くために必要な能力とは

本書はタイトルの通り国際スポーツ組織で働くためのアドバイスが記載されている一冊。“国際スポーツ組織”とは分かりやすい例でいえばFIFAやIOCなど。実際に国際スポーツ組織で働く日本人のインタビューや、そこに至る上で必要となる知識・学び方が記載されている。

「英語でディスカッションができる事が前提条件」と書かれている時点で私は対象外なのだが、それ以外の部分においてはドメスティックな仕事をする上でも参考(必要)になる要素が書かれている。FIFAではなくJFA、IOCではなくJOC。要は各都道府県のスポーツ協会を“まとめ役”的な組織で働く上で必要な事が多々書かれていた点は自分の仕事と共通する部分が多く、一般ビジネス参考書としても面白く読ませてもらった。

どの組織においても共通して必要となる要素として出てくるキーワードは「ガバナンス」。具体的にはルール作りや、エンゲージメントを意識した(関わる人を増やす)企画を考える能力の事。「国際」スポーツ組織となるとビジネス相手が異文化である苦労もあるので、相手の事もよく理解したコミュニケーション能力が求められるのだろう。「ダイバーシティマネジメント」という言葉で表現している組織人もいた。

ワールドカップサポーター記念撮影
ワールドカップの様な国際大会に関われる仕事は魅力的

■チャンスに備える

就活本でもあるのでキャリアについての記載も多いのだが、この手の本における登場人物は皆、能動的な行動力が凄まじい。思い立ったら即留学なんて当たり前。脱サラなんて怖くない。人材募集をしていない組織に電話しまくり、履歴書送りまくりの自己アピール祭り。無理矢理アポを取って、その場でプレゼンして契約社員の座をゲット。私には真似できません・・・。

ただ、ここまでの行動力はないがらもチャンスに備えて準備はしておこうかなという気になった。つまり、お勉強。学生時代からスポーツビジネスは好きだし、今勤めているメディアの会社もスポーツビジネスの一端である事は間違いない。ただ、自分がやりたいスポーツビジネスとは少し違う。もっとグラスルーツな現場に近いスポーツの世界への興味がある。案外チャンスは身近に転がっているような気がしているのだ。

それは2020年の東京五輪後の日本を想像する事や、「スポーツのグラスルーツ」をテーマに会社に新規事業の企画書を出したりした事から感じているものだと思う。本書に記載されている社会人向け夜間スポーツビジネス学校が勤務地から近かったりする事で余計リアルなものとして想像できた。チャンスが転がってきた時に手を挙げられるくらいの準備はしていて損はないはず。

本書を読んでスポーツビジネスを勉強したい欲が再燃した。会社が学校に通う学費を出してくれるかもしれないかな・・・なんて妄想をしながらも、上記企画書を片手間で仕上げた事を後悔した。

関連記事:【書評/読書感想】「スポーツ事業マネジメントの基礎知識」(金森喜久男)



【書評/読書感想】「サッカーおくのほそ道」(宇都宮徹壱)

一言で表現するのであれば「サッカーに対する考え方の多様性」を紹介した本。企業、選手、スポンサー、サポーター、スタッフ、監督・・・あらゆる立場の目線から“我がクラブ”を愛し、愛するゆえに苦悩し、もがく様を第三者の目線で書かれてある。サッカーはピッチ外の戦いも熱い。ノンフィクションでありながら、ドラマ性も高いので本の世界に没頭して一気に読み終えた。宇都宮さん著なので、もちろん取材対象はアンダーカテゴリー。初見の情報が多いのも魅力。


マスコットにも詳しい事で有名なライター・写真家 宇都宮徹壱さん(写真右)

印象深いのは東京武蔵野シティFCを紹介する章に書かれてある宇都宮さんの想い。宇都宮さんの地元クラブである東京武蔵野シティFCに対してJリーグクラブになるより、ビッグクラブになるより、身近に寄り添う存在であり続ける事を望んでいる・・・これは一冊を通じて一番伝えたいメッセージだったと推測する。ホンダロックSCのサポーターで「今そこにあるサッカーを愛せ!」と唄い続けるロック総統、奈良クラブで奈良劇場総支配人をエンジョイする岡山一成、ブリオベッカ浦安でクラブとしてはJリーグを目指せない中でも世界に羽ばたく選手を育てる事に熱い想いを持つ都並敏史・・・皆、Jリーグを目指すクラブ関係者よりイキイキと描かれていると感じたのは気のせいではないはず。

各章の最期には【付記】という形でクラブの“その後”が簡潔に紹介されているのだが、現実は甘くない事を教えさせられる。何かを犠牲にして、リスクを冒して上を目指すだけが選択肢ではないという価値観。それは決してネガティブな事ではないという考え方がこの本を通じて日本のサッカーファンに広がれば素敵だ。

関連記事①:【書評/読書感想】「フットボール百景」(宇都宮徹壱)
関連記事②:『J番記者による大忘年会2016』に参加してきた話



【書評/読書感想】「スタジアムの宙にしあわせの歌が響く街」(天野春果)

独自路線をひた走る川崎フロンターレ関連のイベント。その仕掛け人である天野春果氏がそうしたイベントの企画から実行に至る過程を想いと共に紹介している一冊。同じコンセプトである「僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ」に続く2冊目の出版になる訳だが、それは実現できる(書ける)だけのネタがある(イベントを実施している)という事であり、1冊目が売れたゆえの2冊目でもある。そんな全Jリーグクラブスタッフの中でも稀有な存在である天野氏の仕事術とは。

天野春果 ロスタイムは7分です

本書では「宇宙巨大2DAYS」と「高田スマイルフェス2016」という川崎フロンターレが近年力を入れたイベントにフォーカスが当てられている。共にビッグイベントだがそこに至る過程は実に地道で等身大。出てくる予算は数十万円。上司からは企画を反対され、度々発生する想定外に頭を悩ます様は自分と重ねて読みやすい。政治や桁違いのお金が動く“電通とワールドカップ”のようなテーマのスポーツビジネス本もいいが、リアリティを感じながら読める点で参考になるのはこちらだ。

詳しい記述はネタバレになるので避けるが一冊を通じて印象的なのは「熱量(行動力)」と、それに付随する「人脈(支持者)」の存在。先日、私が所属する会社の≪新規事業セミナー≫で講師が総括として「色々テクニックを話しましたが、最終的には“熱量”が大切です」と話していた事を思い出した。各企画にはキーマンとなる支持者が必ず登場するのだが、彼らは自身の利益ではなく天野氏の熱量によって企画に価値を見出し支援している。

そして、その支持者の多くが一般人(サポーター)である事は驚きだった。サポーターがクラブの他法人との会議に同席するなんて初めて聞いた。先日、ガンバサポーターの飲み会で“サポーター人脈の有効利用”がテーマになったが、某クラブはスタッフがサポーターと近しい関係になるのを禁じているという話を聞いたばかりだったので余計に印象に残った。Jリーグサポーターは当事者意識が強いのは既に自明なので、スタジアム外においても「サポーターはクラブの一員」になる関係性構築は今後クラブが発展する上において参考になるはずだ。

そんな天野氏は今年から東京五輪の組織委員会に出向する。本書を読む限りは仕事が人に紐付いている(天野さんの存在ありき)様にも思えたが、来シーズン以降のフロンターレのイベントに注目したい。何気なく試合前に過ぎ去っていた等々力競技場のブースやイベントも来シーズンは注目しようと思う。今からアウェイ川崎戦が楽しみだ。

関連記事:【書評/読書感想】「僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ」(天野春果)