【書評/読書感想】「サッカーおくのほそ道」(宇都宮徹壱)

一言で表現するのであれば「サッカーに対する考え方の多様性」を紹介した本。企業、選手、スポンサー、サポーター、スタッフ、監督・・・あらゆる立場の目線から“我がクラブ”を愛し、愛するゆえに苦悩し、もがく様を第三者の目線で書かれてある。サッカーはピッチ外の戦いも熱い。ノンフィクションでありながら、ドラマ性も高いので本の世界に没頭して一気に読み終えた。宇都宮さん著なので、もちろん取材対象はアンダーカテゴリー。初見の情報が多いのも魅力。


マスコットにも詳しい事で有名なライター・写真家 宇都宮徹壱さん(写真右)

印象深いのは東京武蔵野シティFCを紹介する章に書かれてある宇都宮さんの想い。宇都宮さんの地元クラブである東京武蔵野シティFCに対してJリーグクラブになるより、ビッグクラブになるより、身近に寄り添う存在であり続ける事を望んでいる・・・これは一冊を通じて一番伝えたいメッセージだったと推測する。ホンダロックSCのサポーターで「今そこにあるサッカーを愛せ!」と唄い続けるロック総統、奈良クラブで奈良劇場総支配人をエンジョイする岡山一成、ブリオベッカ浦安でクラブとしてはJリーグを目指せない中でも世界に羽ばたく選手を育てる事に熱い想いを持つ都並敏史・・・皆、Jリーグを目指すクラブ関係者よりイキイキと描かれていると感じたのは気のせいではないはず。

各章の最期には【付記】という形でクラブの“その後”が簡潔に紹介されているのだが、現実は甘くない事を教えさせられる。何かを犠牲にして、リスクを冒して上を目指すだけが選択肢ではないという価値観。それは決してネガティブな事ではないという考え方がこの本を通じて日本のサッカーファンに広がれば素敵だ。

関連記事①:【書評/読書感想】「フットボール百景」(宇都宮徹壱)
関連記事②:『J番記者による大忘年会2016』に参加してきた話



【書評/読書感想】「スタジアムの宙にしあわせの歌が響く街」(天野春果)

独自路線をひた走る川崎フロンターレ関連のイベント。その仕掛け人である天野春果氏がそうしたイベントの企画から実行に至る過程を想いと共に紹介している一冊。同じコンセプトである「僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ」に続く2冊目の出版になる訳だが、それは実現できる(書ける)だけのネタがある(イベントを実施している)という事であり、1冊目が売れたゆえの2冊目でもある。そんな全Jリーグクラブスタッフの中でも稀有な存在である天野氏の仕事術とは。

天野春果 ロスタイムは7分です

本書では「宇宙巨大2DAYS」と「高田スマイルフェス2016」という川崎フロンターレが近年力を入れたイベントにフォーカスが当てられている。共にビッグイベントだがそこに至る過程は実に地道で等身大。出てくる予算は数十万円。上司からは企画を反対され、度々発生する想定外に頭を悩ます様は自分と重ねて読みやすい。政治や桁違いのお金が動く“電通とワールドカップ”のようなテーマのスポーツビジネス本もいいが、リアリティを感じながら読める点で参考になるのはこちらだ。

詳しい記述はネタバレになるので避けるが一冊を通じて印象的なのは「熱量(行動力)」と、それに付随する「人脈(支持者)」の存在。先日、私が所属する会社の≪新規事業セミナー≫で講師が総括として「色々テクニックを話しましたが、最終的には“熱量”が大切です」と話していた事を思い出した。各企画にはキーマンとなる支持者が必ず登場するのだが、彼らは自身の利益ではなく天野氏の熱量によって企画に価値を見出し支援している。

そして、その支持者の多くが一般人(サポーター)である事は驚きだった。サポーターがクラブの他法人との会議に同席するなんて初めて聞いた。先日、ガンバサポーターの飲み会で“サポーター人脈の有効利用”がテーマになったが、某クラブはスタッフがサポーターと近しい関係になるのを禁じているという話を聞いたばかりだったので余計に印象に残った。Jリーグサポーターは当事者意識が強いのは既に自明なので、スタジアム外においても「サポーターはクラブの一員」になる関係性構築は今後クラブが発展する上において参考になるはずだ。

そんな天野氏は今年から東京五輪の組織委員会に出向する。本書を読む限りは仕事が人に紐付いている(天野さんの存在ありき)様にも思えたが、来シーズン以降のフロンターレのイベントに注目したい。何気なく試合前に過ぎ去っていた等々力競技場のブースやイベントも来シーズンは注目しようと思う。今からアウェイ川崎戦が楽しみだ。

関連記事:【書評/読書感想】「僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ」(天野春果)



【高校サッカー観戦記】ライバルを応援できる強さ

1月5日、高校サッカー選手権を観戦しに等々力競技場に行った。お目当ては2017年シーズンからガンバ大阪へ入団が内定している東福岡高校の高江麗央選手。生でプレーを観たのは初めてながら、プレーエリアも広く、状況判断に優れた好プレーヤーだった。スピードがあり、ドリブル突破という武器を持っている事からサイドでボールをもった時の雰囲気もある選手で、数年後にトップチームでも活躍するだろうなと思わせるポテンシャルを感じた。

そんな高江選手よりも印象に残った選手がいた。それはスタンドで応援する“ベンチ外”の選手達だ。普段、Jリーグを見慣れている私でも彼らの声量と一糸乱れぬアクションには毎年驚かされる。ベンチ外という悔しさを押し殺してライバルでもあるチームメイトを応援する事に対する心の葛藤も想像すると尊敬の念は深まるばかり。「For The Team」の精神を学び実践した彼らはきっと社会に出てからレギュラーを掴むに違いない。彼らに幸あれ。


我が地元である大阪代表:東海大仰星の躍進にも拍手

■高校サッカーで学んだもの

ちなみに私も元高校サッカー部員である。弱小高校だったのでスタンドで応援する経験はないのだが、代わりに自分が出ていない試合は保身(レギュラーを守る)のためにチームの敗戦を願うようなメンタリティが身に付いた。東福岡の応援を観ながら「高校サッカー部時代に私は何を学んだのだろう」と自問自答すると虚しくて涙が出そうになった。試合に出るだけが全てじゃないし、そこがゴールでもない。今の私は会社で同僚の成功の心から応援できるだろうか・・・。

また、高校サッカー部時代にはレギュラー外の選手達を中心にコーチ解任を目的としたクーデーターも起きている。理由は「自分達のプレーが見られていない(Aチームばっかり見ている)」「試合中、指揮する態度が悪い」「練習内容の効果が疑わしい」・・・etc. 結果は選手達の意見が通り、コーチは解任された。こんな事が普通に起きてしまう“ぬるい”環境で育った私。「高校サッカー部は理不尽を学ぶところ」とは某解説者の言葉だが、前述のような不満は社会では当たり前に発生するし、理不尽への免役がない自分は今後社会でやっていけるのか不安になった。

大人になった今でも、高校サッカーから学べる事は多い。

関連記事:「最後のロッカールーム」での嘘泣きから10年が経って ~高校サッカー備忘録~




虚無感の先に -天皇杯決勝総括-

肩を落とす選手達を拍手で迎い入れる川崎フロンターレサポーター。試合後に掲げられた風間監督への横断幕。大久保嘉人の挨拶に対する涙。あの光景はぬるいのだろうか。それとも幸せな光景なのだろうか。三冠を獲った長谷川健太監督のサッカーが結果を伴わなくなった途端にサポーターから愛されなくなった事を愁いながら、そんな事を考えた。

「タイトルを取らなければ何も残らない」というのは第三者の視点だ。無冠で終わった風間監督時代の川崎フロンターレのサッカーは数年後には多くの人に忘れられるのだろうが、川崎サポーターにとっても同じかどうかは分からない。また、新監督は継続路線である事も大きい。同じ継続路線で成功した広島のミシャ→森保の前例を考えても、この決勝戦が川崎にとっての“集大成”にはならない可能性がある。来シーズンへ向けて今の道が続いている事を感じる事ができる川崎サポーターは実は幸せなのではないだろうか。


いつもはガンバ一色の万博記念公園駅が天皇杯仕様に

■虚無感の先に

ガンバが勝ち残る事を信じて購入したチケットは川崎側の指定席だった。ゴール裏も近かったので彼らのこの一戦にかける想いの強さはチャントの声量からも伝わってきた。想いが強ければ強いほど夢破れた時のショックは大きく、「もしも川崎が負ければ・・・」という視点は(川崎サポには悪いが)正直に言ってこの試合の見所の1つだった。第三者的に悲劇はエンタテイメントなのだ。

結果は“良いサッカーをして負ける”というこれ以上ない儚いものとなった。

風間監督と大久保嘉人のラストゲームという点に加え、CS準決勝の悔しさも背負っての一戦だったと思う。それらが力になったのか、重荷になったのかは分からないが、敗戦という結果になってしまった時点でそれらは虚しさを助長させる要素となった。

ただ、味わった虚無感が大きければ大きいほどクラブへの愛が強まる不思議。補強の進んでいる川崎は来シーズンもきっと強いだろう。敗戦を否定するブーイングではなく、拍手の先に未来がある。


初めてラウンジ付きシートで観戦

関連記事:【2nd 最終節】川崎フロンターレ-ガンバ大阪@等々力



【天皇杯 準々決勝】横浜F・マリノス-ガンバ大阪@日産

【横浜F・マリノス 2-1 ガンバ大阪】

“家族の事情で帰国”や、“来シーズンの移籍が内定”等々、毎年恒例ながらモチベーションの維持が難しい時期に開催されるのが天皇杯。更に今年はリーグ戦が11月上旬に終了した事に伴う長期中断を挟むという高難度さ。ガンバに関しては中断期間中に怪我人も続出する事態も発生。

そして、移籍が噂される阿部、大森、岩下はスタメンを外れ、ジョンヤは途中交代。メンバー構成だけでも色々推測してしまう中でチーム一丸で戦う難しさはあったかもしれない。「棚ぼたACL権」の権利を得られるリーグ年間順位4位を獲得していた事も心に隙を生んだ可能性はあるだろうし、「史上初の3連覇」や「吹田スタジアムでの決勝」は選手達にどれだけのモチベーションを与えたのか疑問だ。

■偏見と心

「心」を鍛えるのは難しい。だからこそ、サポーターという存在が重要視される。つまり、サポーターの声援が心技体の「心」を支える事ができると想っている。

例えば、ヒガシの怪我で出場する事になった藤ヶ谷。セカンドGKという出場機会が少ない難しい立場であるが、声援からガンバサポーターが藤ヶ谷を信頼している事が伝わっていれば嬉しい。凡ミスの印象も強いGKゆえにネガティブな偏見とも戦わなければいけない中で、一番身近なガンバサポーターの存在が勇気になって欲しい。今日は藤ヶ谷コールの声量、苦手な足元のファーストプレー後の拍手など良い雰囲気を作れた気がしている。藤ヶ谷をここまで盛り立てる事ができるのはガンバサポーターだけだ。

そして、サポートを必要としているのは選手だけではない。

主審は家本さんだった。藤ヶ谷以上に偏見で評価される事の多い彼にこそ必要なサポーターは・・・いない。直近話題になったCS決勝のPK判定の印象が残っていたのであろうが、日産スタジアム内で家本主審の名前がアナウンスされた時の観客席の反応は異常だった。前述のPK判定しかり、偏見が偏見を生む負のスパイラルから抜け出せていない家本主審の苦悩は想像を絶する。

あのふてぶてしいキャラクターは賛否両論で仕方ない部分はある。しかし、家本主審の仕事が正しく評価されていない事も確か。偏見はすぐになくならない。だからこそ、信頼や評価の声もしっかりあげる事が大切だ。

主審を孤独にしてはいけない。そんな事を想うクリスマスイブの夜。

関連記事:【天皇杯 準決勝】ガンバ大阪-サンフレッチェ広島@長居